借地権の相談をよく受けます。
相談内容は、様々ですが、地主から借地権(土地)を返して欲しいと言われている、転居の予定があり地主に借地権を返そうと思っている、というものがあります。
ここで、”返す”というのは、文字通りで、少し補足しますと、”ただ”で返すということになります。
借地人の方からすると、借りていただけなので、ただで返すのは、当たり前というように思われているようです。
また、借地契約は、長期に及ぶことが多く、両親から相続していた場合では、借地権を取得したという認識があまりない為、ただで返すものだと思われていることが多いように感じられます。
そこで、このような話があった時に、私の方で、借地権は売却することが可能です、ということをお知らせしますと、非常に驚かれる方が多いです。
勿論、借地権ですので、完全所有権の土地とは異なりますので、価格は安くなりますが、それでも不動産の価格ですので、それなりの金額になることが多いです。
今回は、借地権の売却について、解説をしていきます。
1.借地権とは
まず、借地権について、解説をします。
教科書的な説明になりますが、借地借家法第一条によると、借地権とは、”建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権”になります。
2つポイントがあります。
「建物所有目的」と、「地上権及び土地賃借権」です。
大事なのは、前者の「建物所有目的」です。
一般的には、資材置場、駐車場等の利用目的として、土地を借りていれば、その権限を借地権ということがあります。これ自体は問題はありません。
文字どおり、借地ですので、土地を借りていれば、借地になります。
ですが、借地借家法に規定する借地権というのは、建物所有目的となりますので、前記の資材置場、駐車場等としての利用目的の場合には、借地借家法による借地権には該当しません。
これは、どういうことかと云うと、借地であっても、資材置場や駐車場等としての利用であれば、借地借家法に定める借地権には該当しないので、借地借家法による保護は受けられないことを意味します。
借地借家法による保護を受けられなければ、その借地の権利は弱いものになりますので、通常は、経済価値は認められず、取引の対象とはなりません。
一方で、建物所有目的であれば、借地借家法により、権利の強化が図られますので、借地契約内容にもよりますが、取引の対象となります。
2つめの、地上権及び土地賃借権ですが、借地権は、通常、土地賃借権ですので、地上権については、今回は触れずに、説明をしていきたいと思います。
ここで一旦まとめますと、借地権とは、建物所有目的の土地賃借権になります。
資材置場や、駐車場等の利用では、建物所有目的ではありませんので、借地権にはなりません。
2.借地権の価格
本題に戻ります。
では、売れるとしたら、いくらで売れるのでしょうか。
借地権の存する地域、借地契約内容によって異なってきますので、一概にいくらというのは、難しいです。
ですが、目安はあります。
その目安として利用することが出来る路線価図について、説明します。
(1)路線価図
まず、下図を見て下さい。
相続税路線価図です。
足立区の北千住駅東口の路線価図になります。
少し小さくて、見にくいと思いますので、一部を切り出します。
初めて見られる方には、分かりにくいかもしれませんので、路線価図の見方を解説します。
1,470C、480C、420D等の数字とアルファベットの組み合わせがたくさんあります。
数字の方が路線価で、アルファベットは借地権割合になります。
上部の赤丸で囲ったのが、路線価の時点になり、四角で囲ったのが、借地権割合になります。これれについては、この後説明します。
(2)路線価
路線価の単位は、千円/㎡ですので、1,470とあったら、1,470,000円/㎡と意味です。
図の左上に”令和6”とありますが、この場合、令和6年1月1日時点ということを意味します。
国税庁のホームページでは、過去の路線価も閲覧できます。
毎年、最新の路線価は、7月に発表されます。
道路上に、矢印で範囲が示されていますが、その範囲内の土地(道路に接する土地)の路線価になります。
名前のとおり相続税路線価ですでの、相続税、贈与税の算定の為に用いられるものですので、時価とは異なりますが、この相続税路線価は、地価公示価格の80%を目安となるように定められています。
例えば、路線価図中に、公5-18とあります。
これは、地価公示地で、公示5-18という地点になります。
その前面の路線価は、480となっています。
公示5-18の令和6年(2024年)1月1日の価格は、578,000円/㎡ですので、路線価は、概ね80%になっていることが分かるかと思います。(480÷578≒0.83)
本ブログの目的は、借地権価格の説明ですが、上記により、土地価格が分かります。
(3)借地権価格
さて、借地権価格です。
先に、簡単に説明させていただきましたが、路線価から、土地価格が分かります。
上図のどこでもいいのですが、路線価が440Dとありましたら、路線価は、公示価格の80%になるように敷設されていますので、路線価を80%で割り戻せば、公示価格水準の土地価格になります。
路線価は、440でしたら、公示価格水準は、以下のとおりです。
440,000円/㎡÷80%=550,000円/㎡
ここで、2つ補足をします。
一つ目は、上記により公示価格水準の土地価格が分かりますが、この場合の土地価格は標準的な土地だった場合の土地の価格ということになります。
不整形地であったり、規模が極端に大きかったり、セットバック面積があるなどした場合には、補正が必要となってきます。
二つ目は、公示価格水準が、必ずしも実勢価格とはならないことです。
例としてあげさせていただいた北千住駅の路線価図ですが、北千住駅は、非常に人気が高く、取引価格水準も高額です。
取引価格水準は、公示価格以上であることが予想されます。
上記、2つの補足につきましては、別の機会で説明しますので、今回は、公示価格水準が実勢価格として、以下話を進めます。
話しは、戻りまして、土地価格が、550,000円/㎡と求められました。
これは、更地価格になります。
ここから、借地権価格を求めるのですが、先の図の上部の赤で囲った四角を見て下さい。
A、B、C、D、E、F、Gとあり、それぞれ借地権割合が90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%となっています。
借地権割合というのは、更地価格に対する、借地権価格の割合ですので、先の例でいきますと、Dでしたので、この場合の借地権割合は40%となります。
これを更地価格に乗じると、借地権価格が求められます。
550,000円/㎡÷40%=220,000円/㎡
(4)借地権割合、借地権価格の注意点
路線価図から、借地権価格を求められました。
先に求めた借地権価格は、単価ですので、これに土地(借地)数量を乗じると総額が求められます。借地面積が100㎡だとすると、
220,000円/㎡×100㎡=22,000,000円
となります。
ですが、これは目安にしかならない、ということに注意して下さい。
土地価格については、先に標準的な土地である場合の価格であると触れましたが、それと同様に、路線価図による借地権割合は、標準的な借地権の場合の割合に過ぎないからです。
実際には、借地権には、契約による用途制限や地代の高低、借地残存期間など、様々で、借地権価格もそれらによって異なってきます。
ですので、路線価図から求めた借地権価格は、目安としてご利用下さい。
3.借地権の売却方法
では、借地権を売却するには、どうしたらいいでしょうか。
2つの方法が考えられます。
一つは、地主に買い取ってもらう、もう一つは、第三者に売却する、の2つです。
まず、地主に買い取ってもらう方法から説明します。
(1)地主への売却
借地権の売買においては、地主に買い取ってもらうケースがよくあります。
この後、第三者に売却する場合に触れますが、第三者に売却するケースよりも、手間も費用もかからないからです。
一方、地主からすると、借地権が存する状態では、地代をもらうだけでしたが、借地権を買い取ることによって、完全所有権となりますので、自らその土地を利用する、あるいは、売却することが出来、地主にもメリットが生じる可能性が高いです。
では、地主に買い取ってもらうには、どうしたらいいのでしょうか。
実はとても簡単で、地主に直接、話をすればいいだけです。
地主の方で、買い取る意向があれば、後は、価格の交渉をするだけです。
(2)第三者への売却
借地権も、取引の対象となりますので、第三者に売却することは可能です。
この点において、普通の不動産と同じように考えてもらっても大丈夫です。
普通の不動産と同様ですので、売却を思い立ったら、不動産者に相談にいけばいいだけです。
①第三者へ売却する場合の注意点
注意点としましては、借地権は、通常の土地と比べると、その数が少ないことから、不動産業者によっては、取り扱いがないか、その経験が乏しいことがあります。
ですので、その業者が、借地権について、きちんと理解しているのかを確認する為、数社に相談するのが、トラブルを避けることにつながります。
また、そもそもの話しになりますが、一般的に土地価格の低い地域では、借地権の取引慣行がないこともあり、このような場合には、第三者への売却が困難になりますので、地主へ売却を検討するしかありません。
更に、借地権価格は、完全所有権である更地の価格と比較すると、安くなる為(先の例では、40%)、不動産業者が受け取る仲介手数料も安くなるので、業者も手間がかかる割に、報酬も安くなる、ということで、積極的には、取り扱ってくれない可能性もあります。
②譲渡承諾
不動産業者に、借地権の売却を依頼し、買主が見つかったとしましょう。
通常の売買であれば、後は、契約を締結するだけですが、借地権の場合には、地主の譲渡承諾を得る必要があります。
ここまで、長くなりましたので、詳細は、別途まとめますので、今回は、概略だけ説明します。
借地権を第三者に売却するには、地主の許可が必要となり、これを譲渡承諾といいます。
地主の承諾が得られれば、譲渡承諾料を支払います。通常、この金額は、借地権価格の10%とされています。
借地人は、借地権価格の売却代金の内、10%を地主に支払うということです。
また、地主が許可をしてくれないことも起こりえますが、この場合には、裁判所に訴えることで、売却することが可能になります。
4.まとめ
借地権の売却について、説明させていただきました。
契約内容等にもよりますが、借地権は、取引の対象になる、ということをまず知っていただきたく、本ブログを作成しました。
売却する場合には、通常の土地と比較する、少し複雑ですが、信頼できる不動産会社に相談すれば、それ程、面倒なことには、ならないものと思われます。
譲渡承諾など、少し説明を簡略化してしまった所がありますが、これにつきましては、別途、詳しく説明をしていきたいと考えております。
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[…] 前回は、借地権について、説明させていただきました。 […]