はじめに|個人間売買の人気とリスク
近年、不動産売買において「仲介業者を介さない個人間取引」が注目されています。仲介手数料を節約できる、スピーディーに交渉できるなどのメリットが魅力です。
しかし、その裏には専門知識不足による重大なリスクが潜んでいます。
契約書の不備や重要事項説明の欠落、境界トラブル、税金の誤解など、取引金額が大きい不動産では一度の失敗が致命的になりかねません。
特に、宅建業者を介さない場合、法律上の保護がなく、当事者同士で全てを判断する必要があります。安全な取引を実現するためには、事前準備と正しい知識が不可欠です。
本記事では、不動産鑑定士の視点から、個人間売買を行う際に押さえておくべき10の注意点を詳しく解説します。契約やトラブル回避のために、ぜひ参考にしてください。
この記事を読んで分かること
- 個人間不動産売買の仕組みと流れ
- 仲介手数料削減のメリット
- 法的リスクと注意点
- よくあるトラブル事例
- 安全な取引のための10の注意点
- 専門家活用の重要性

個人間不動産売買とは?
不動産売買といえば、通常は宅建業者が仲介し、重要事項説明や契約書の作成、決済のサポートを行います。こうした仕組みにより、法律上の保護や専門的なチェックが受けられるのが一般的です。
しかし、近年注目されている「個人間売買」では、仲介業者を介さず、売主と買主が直接取引を進めます。
仲介手数料を節約できる点が最大の魅力ですが、その分、契約や手続きに関する責任はすべて当事者に委ねられ、法的リスクが高まります。

仲介なしで行う取引の仕組み
通常、不動産売買は宅建業者が仲介し、重要事項説明や契約書作成を行います。しかし、個人間売買ではこれらを当事者同士で進めるため、法的リスクが高まることには、十分注意して下さい。
しかし、この点さえクリア出来れば、仲介手数料がかからないというメリットを享受できることになります。
一般的な流れ
個人間で不動産売買を行う場合、基本的な流れは次のとおりです。一見シンプルに見えますが、各ステップには注意すべきポイントがあります。
売主と買主が条件を合意
まず、売買価格や引渡し時期、残置物の取り扱いなど、取引条件を双方で話し合い、合意します。この段階で曖昧な取り決めをすると、後々トラブルの原因になるため、できるだけ具体的に決めることが重要です。
契約書作成・署名
条件が決まったら、売買契約書を作成します。
契約書には、物件情報、支払方法、違約金、解除条件などを明記する必要があります。個人間売買では自作するケースが多いですが、法的に不備があると紛争に発展するため、司法書士や弁護士にチェックを依頼することを推奨します。
手付金支払い
契約締結後、買主は手付金を支払います。手付金は契約の履行を担保する役割があり、通常は売買価格の5~10%程度です。現金手渡しは避け、銀行振込やエスクローサービスを利用することで安全性を確保しましょう。

残代金決済・引渡し
決済日には残代金を支払い、物件の引渡しを行います。鍵の受け渡しや設備の確認を事前にチェックリストで整理しておくと、引渡し後のトラブルを防げます。
登記手続き
最後に、所有権移転登記を行います。登記が完了しないと、法的に所有権が移転したことになりません。司法書士に依頼することで、書類不備や手続きミスを防ぐことができます。
ポイント
この流れはシンプルに見えますが、各段階で専門知識が求められます。契約書の不備や登記の遅延は重大なトラブルにつながるため、必ず専門家のサポートを受けることをおすすめします。
なぜ人気?
個人間売買が人気を集める理由は、仲介手数料(売買価格の3%+6万円)が不要であること、条件交渉が柔軟にできること、そして知人同士の取引で「安心できる」と誤解されやすいことです。
しかし、こうしたメリットの裏には、トラブルのリスクが潜んでいます。
安全な取引を実現するためには、契約書の整備や専門家のサポートが不可欠です。
この章のまとめ
個人間不動産売買は仲介手数料を節約できる一方、契約や手続きの責任が当事者に集中し、法的リスクが高まります。流れはシンプルに見えますが、契約書の不備や登記の遅延は重大なトラブルを招くため、専門家のサポートを受けることが安全な取引の鍵です。
個人間売買のメリット・デメリット
不動産取引において、仲介業者を介さない「個人間売買」は、近年注目を集めています。最大の理由はコスト削減とスピード感ですが、その一方で、専門知識不足によるリスクも大きく、慎重な判断が求められます。ここでは、個人間売買のメリットとデメリットを詳しく整理します。

メリット
仲介手数料ゼロで大幅なコスト削減
通常の不動産売買では、仲介業者に対して「売買価格の3%+6万円」の手数料が発生します。
例えば、3,000万円の物件なら約96万円の負担です。個人間売買ではこの費用が不要となり、数十万円から数百万円の節約が可能です。
スピード感のある取引
業者を介さないため、条件交渉や契約締結までのやり取りが迅速に進みます。特に、知人同士や親族間での取引では、意思決定が早く、短期間で売買が成立するケースもあります。
柔軟な条件交渉
仲介業者を通さないことで、価格や引渡し条件、残置物の取り扱いなどを自由に調整できます。双方の合意があれば、一般的な慣習に縛られない取引が可能です。
デメリット
法的リスクの増大
宅建業者を介さないため、宅建業法による保護が受けられません。重要事項説明が省略されるケースも多く、物件の法令制限や設備状況を把握しないまま契約してしまう危険があります。
契約不備によるトラブル
契約書の記載が曖昧だったり、契約不適合責任(瑕疵担保責任)の取り決めが不十分だと、引渡し後に欠陥が発覚して紛争に発展することがあります。特に、境界や面積の誤認は高額な損害につながる可能性があります。
融資・登記の難しさ
金融機関は個人間売買に慎重な姿勢を取ることが多く、住宅ローンの審査が厳しくなる場合があります。また、登記手続きも当事者が自ら行う必要があり、専門知識がないと手続きミスや遅延のリスクがあります。
この章のまとめ
個人間売買は、仲介手数料を節約できる大きなメリットがありますが、法的リスクや契約不備によるトラブルの可能性も高い取引です。安全に進めるためには、契約書の整備や専門家のサポートが不可欠です。
次章では、個人間売買でよくあるトラブル事例を詳しく解説します。
個人間売買でよくあるトラブル事例
個人間で不動産売買を行う場合、仲介業者を介さないことでコスト削減やスピード感といったメリットがあります。しかし、その裏には専門知識不足による重大なトラブルが潜んでいます。ここでは、実際に起こりやすい事例を整理し、なぜ問題になるのかを解説します。

契約書の不備による紛争
個人間売買では、契約書を自作するケースが多く、法的に不十分な内容になりがちです。
例えば、引渡し時期や残置物の取り扱いが曖昧だと、後日「約束が違う」と揉める原因になります。また、解除条件や違約金の記載がない場合、トラブル解決に時間と費用がかかります。
重要事項説明の欠落
宅建業者を介さないため、ほとんどの場合、重要事項説明が省略されることになります。
建築基準法や都市計画法による制限、再建築不可物件など、知らずに購入すると資産価値が大きく下がるリスクがあります。さらに、雨漏りやシロアリ被害などの瑕疵情報が告知されないまま契約すると、引渡し後に高額な修繕費が発生します。
境界・面積の誤認
土地取引では、境界が不明確なまま契約するケースが少なくありません。隣地との境界トラブルは裁判に発展することもあり、確定測量を怠ると後々大きな問題になります。
また、登記簿面積と実測面積が異なる場合、価格や税金計算に影響します。
契約不適合責任(瑕疵担保責任)の取り決め不足
契約書に契約不適合責任の範囲や期間を明記しないと、引渡し後に欠陥が見つかった際、売主と買主の間で責任の押し付け合いが起こります。特に中古物件では、設備不良や構造上の問題が発覚するケースが多く、事前に取り決めをしておくことが重要です。
資金決済・登記の不備
個人間売買では、手付金や残代金の授受を現金で行うケースがありますが、これは非常に危険です。詐欺や持ち逃げのリスクを避けるため、銀行振込やエスクローサービスを利用すべきです。また、登記手続きの遅延や書類不備により、所有権移転が完了しないままトラブルになる事例もあります。
この章のまとめ
個人間売買は、仲介手数料を節約できる一方で、契約書の不備や重要事項説明の欠落、境界問題など、専門知識がないと見落としやすいリスクが多数存在します。こうしたトラブルを防ぐためには、契約前に専門家のチェックを受けることが不可欠です。
次章では、これらのリスクを回避するための「10の注意点」を詳しく解説します。
個人間売買を安全に進めるための10の注意点
これまで説明してきました個人間売買によるメリット、デメリット、トラブル事例を踏まえまして、10の注意点を紹介します。

契約書は必ず専門家に確認
不動産売買契約書は、取引の根幹をなす重要な書類です。個人間売買では、契約書を自作するケースが多く、法的に不十分な内容になりがちです。
例えば、引渡し時期や違約金、解除条件が曖昧だと、後日紛争に発展する可能性があります。契約書は必ず司法書士や弁護士にチェックを依頼し、法的に有効な内容に整えましょう。
重要事項説明を省略しない
宅建業者を介さない場合、重要事項説明が義務付けられていません。
しかし、物件の法令制限や再建築不可の有無、設備の状態などを確認しないまま契約すると、資産価値が大きく下がるリスクがあります。重要事項説明書を自作するか、専門家に依頼して作成することを強く推奨します。
登記簿・公図で物件情報を確認
登記簿謄本で所有者や抵当権の有無を確認し、公図で境界を把握することは必須です。
抵当権が残っている場合、売買後に金融機関から差し押さえられるリスクがあります。
また、登記簿面積と実測面積が異なる場合、価格や税金計算に影響するため注意が必要です。
境界確認と測量の実施
土地取引では、境界トラブルが最も多い問題の一つです。隣地との境界が不明確なまま契約すると、後日裁判に発展することもあります。
確定測量を行い、境界標を設置することで、紛争を未然に防ぎましょう。測量費用は数十万円程度かかりますが、安心を買うための投資と考えるべきです。
契約不適合責任(瑕疵担保責任)の取り決め
中古物件では、引渡し後に雨漏りやシロアリ被害などの欠陥が発覚することがあります。契約書に契約不適合責任(瑕疵担保責任)の範囲や期間を明記し、免責条項を入れる場合は慎重に検討しましょう。
買主側は、事前にホームインスペクション(住宅診断)を実施することでリスクを減らせます。
ローン利用時の金融機関対応
個人間売買は、金融機関が融資を渋るケースがあります。理由は、仲介業者による物件調査や契約書の信頼性が担保されないためです。
事前に金融機関へ相談し、必要書類(契約書、登記簿謄本、重要事項説明書)を整備しておきましょう。
場合によっては、エスクローサービスを利用して安全な決済を行うことも検討してください。
税金(譲渡所得税・登録免許税)の理解
売主には譲渡所得税、買主には登録免許税や不動産取得税が発生します。譲渡所得税は売却益に応じて課税され、計算方法を誤ると予想外の税負担が生じます。固定資産税評価証明書を取得し、税額を事前に確認しておくことが重要です。
手付金・残代金の安全な授受方法
現金手渡しは絶対に避けましょう。詐欺や持ち逃げのリスクが高く、証拠も残りません。銀行振込を基本とし、可能であればエスクローサービスを利用して、第三者機関を介した安全な決済を行うことを推奨します。
引渡し条件の明確化
鍵の受け渡し時期、設備の残置物、引渡し後の清掃など、細かい条件を契約書に明記しましょう。曖昧な取り決めは、後日「言った・言わない」のトラブルを招きます。写真やチェックリストを活用し、双方で確認することが重要です。
専門家(不動産鑑定士・司法書士)の活用
個人間売買では、価格の妥当性や法的手続きに不安が残ります。不動産鑑定士に依頼すれば、適正価格を評価し、過大・過小な取引を防げます。司法書士は登記手続きを代行し、法的な安全性を確保します。さらに、弁護士による契約書チェックも併用すれば、トラブルリスクを大幅に減らせます。
この章のまとめ
個人間売買は、仲介手数料を節約できる魅力がありますが、法的リスクや契約不備によるトラブルの可能性も高い取引です。今回紹介した10の注意点を押さえ、必要に応じて専門家を活用することで、安全でスムーズな取引を実現できます。特に、契約書の整備・境界確認・税金の理解は必須項目です。安心して取引を進めるために、事前準備を徹底しましょう。
個人間売買に必要な書類一覧
個人間で不動産売買を行う場合、仲介業者を介さないため、契約や手続きに必要な書類を自分たちで準備する必要があります。書類の不備はトラブルや法的リスクにつながるため、以下の書類は必ず確認・準備しましょう。

売買契約書
取引の基本となる書類です。物件情報、売買価格、支払方法、引渡し条件、違約金、解除条件などを明記します。曖昧な記載は紛争の原因になるため、司法書士や弁護士にチェックを依頼することを推奨します。
登記簿謄本
物件の所有者や抵当権の有無を確認するために必須です。抵当権が残っている場合、売買後に金融機関から差し押さえられるリスクがあります。最新の登記簿謄本を法務局で取得しましょう。
公図
土地の位置や境界を確認するために必要です。境界が不明確なまま契約すると、隣地とのトラブルに発展する可能性があります。確定測量を行う場合は、公図を基に専門家に依頼しましょう。
固定資産税評価証明書
税金計算や登記手続きに必要な書類です。登録免許税や不動産取得税の算定に使われるため、事前に市区町村役場で取得しておきましょう。
重要事項説明書(仲介なしでも推奨)
宅建業者を介さない場合、法的義務はありませんが、物件の法令制限や設備状況を明記した説明書を作成することで、後々のトラブルを防げます。専門家に依頼するか、テンプレートを活用して作成しましょう。
この章のまとめ
これらの書類は、個人間売買を安全に進めるための最低限の準備です。不備があると契約無効や紛争の原因になるため、必ず確認し、必要に応じて専門家のサポートを受けることをおすすめします。
専門家を活用するメリット
個人間で不動産売買を行う場合、仲介手数料を節約できる一方で、契約や手続きに関する責任はすべて当事者に委ねられます。そのため、専門家のサポートを受けることは、取引の安全性を確保するうえで非常に重要です。ここでは、具体的な専門家の役割とメリットを解説します。

不動産鑑定士による価格の妥当性確認
個人間売買では、価格設定が感覚的になりやすく、相場より高額または低額で取引してしまうリスクがあります。不動産鑑定士に依頼すれば、物件の適正価格を専門的に評価し、売主・買主双方が納得できる価格で契約できます。これにより、後々「高すぎた」「安すぎた」という不満や紛争を防げます。
司法書士による登記手続きの代行
所有権移転登記は、不動産取引において必須の手続きです。しかし、書類不備や記載ミスがあると、登記が完了せず、法的に所有権が移転しない状態が続く危険があります。司法書士に依頼すれば、必要書類の準備から法務局への申請までを確実に代行してくれるため、安心して取引を進められます。
弁護士による契約書の法的チェック
契約書の不備は、個人間売買で最も多いトラブルの原因です。解除条件や瑕疵担保責任の記載が不十分だと、引渡し後に紛争に発展することがあります。弁護士にチェックを依頼することで、法的に有効な契約書を作成でき、トラブルを未然に防ぐことが可能です。
税理士による税務相談
売主には譲渡所得税、買主には登録免許税や不動産取得税が発生します。税理士に相談すれば、税額の試算や節税方法をアドバイスしてもらえるため、予想外の税負担を避けられます。
この章のまとめ
専門家を活用することで、価格の妥当性確認、契約書の法的整備、登記手続きの確実性、税務リスクの回避が可能になります。仲介手数料を節約できる個人間売買ですが、こうしたサポートを受けることで、安心・安全な取引を実現できます。
まとめ
個人間不動産売買は、仲介手数料を節約できる大きなメリットがあります。売買価格の3%+6万円という高額な仲介手数料が不要になるため、数十万円から数百万円のコスト削減が可能です。
また、業者を介さないことで交渉がスピーディに進み、条件面で柔軟な対応ができる点も魅力です。
しかし、その一方で、宅建業者による法的保護がないため、契約書の不備や重要事項説明の欠落、境界問題、瑕疵担保責任など、専門知識がないと見落としやすいリスクが潜んでいます。
さらに、金融機関の融資が難しくなるケースや、登記手続きの遅延によるトラブルも少なくありません。
安全な取引を実現するためには、契約書の整備、境界確認、税金の理解に加え、司法書士や弁護士、不動産鑑定士など専門家のサポートを受けることが不可欠です。メリットを最大化し、リスクを最小化するためには、事前準備と正しい知識が鍵となります。
個人間売買というと、隣地の方から不動産を購入するということもあるかもしれません。隣地売買については、下記ブログを参考にしてみて下さい。

