限定価格(理論編) -隣の土地は、倍出してでも買え、は本当か。 不動産鑑定士が徹底解説(続編)-

目次

はじめに|限定価格の理論的な説明について

下記のブログで、限定価格について、簡単に触れさせていただきましたが、本ブログでは、少しだけ理論的な話しをさせていただきたいと思います。

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「隣の土地は、倍出してでも買え」は本当か。 -隣地購入の際の注意点を、不動産鑑定士が徹底解説- 「隣の土地は倍出してでも買え」という言葉には、不動産鑑定の専門概念である限定価格が関係しています。隣地取得によって既存の土地の価値が増加する場合、相場以上の価格でも合理性があります。ただし、すべてのケースで成立するわけではなく、冷静な判断が不可欠です。

限定価格の話をするには、厳密には計算式が必要となり、数字が苦手な方には、敬遠されてしまうかもしれません。
ですが、「隣の土地は、倍出してでも買え」の本質を理解するためには、感覚的でも構いませんので、限定価格の理論を知っていた方が、役に立ちます。

本ブログでは、数字は出て来ますが、計算式は使わず、出来るだけ理解しやすい解説にしておりますので、最後までお付きあい頂けたらと思います。

理論的

限定価格とは何か

それでは、なるべく分かりやすい説明を心掛けますので、限定価格の理論的な説明に入っていきます。

解説

限定価格

まず、限定価格についてです。


先のブログでは、「限定的」、という文言を何度か使いましたが、不動産鑑定の用語になります。
隣の土地を高く相場(正常価格)よりも高く買っても損をしない場合の価格を限定価格といいます。


お隣さん同士という限定された市場で成り立つ価格なので、限定価格と云うと、分かり易いでしょうか。

限定価格とは?
限定価格とは何ですか?
隣の土地を相場より高く買っても損をしない価格です。
なぜ「限定」価格と呼ばれるのですか?
お隣さん同士という限定された市場で成り立つ価格だからです。

不動産鑑定評価基準による説明

教科書的で恐縮ですが、不動産鑑定評価基準では、以下のとおり定義されています。難しいかもしれませんが、そのまま掲載します。

限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいう。

理解しやすいように、ポイントとなる箇所を太字にしました。
他の不動産との併合、というのが隣地を取得するということになります。
次に、市場価値と乖離するですが、隣地を取得することにより、増分価値が生じます。従って、市場価値(正常価格)よりも高く買っても損をしなくなります。
最後の相対的に限定されるは、高い価格で買っても損をしないのは、隣地所有者間だけですので、相対的に限定される、ということになります。

限定価格の例示

不動産鑑定評価基準では、限定価格を求める場合の例示があります。

限定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。
(1)借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合
(2)隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合
(3)経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合

3つ例示されていますが、(2)が、本ブログの隣の土地を買う場合、ということになります。

参考までに、(1)と(3)も説明しましょう。

借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合

借地権が設定されると所有権であった土地は、借地権と底地に分離されます。

借地権割合という言葉はご存じでしょうか。
借地権価格は、一般に、更地価格(所有権価格)の割合として把握されることが多いです。
ここでは、借地権割合が70%だったとすると、借地権価格は70%となり、残りの底地価格は30%ということになります。

そうしますと、借地権者が30%の底地価格を購入しても、更地価格(所有権価格)に復帰するだけですので、借地権者以外の人が購入しても同じです。
つまり、限定価格にはならない、ということになります。

しかし、現実にはそうではなく、借地権や底地の市場性は低いので、実際には、借地権価格は60%であったり、底地価格は20%となったりします。
今、この借地権価格の60%と底地価格の20%を例にとって説明すると、借地権者以外の人は、底地は20%でしか買えません。

ですが、借地権者が底地を購入すると、更地価格(所有権価格)に復帰しますので(100%になる)、最大で底地を40%で購入しても損をしない、ということになります。
これが、借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合となります。

経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合

こちらは、イメージしやすいのではないかと思っています。

土地の一部を、隣地所有者に売却することによって、もともとの土地が不整形になるなど、当初の土地価格よりも価値が下がる場合には、その価値が下がる分を見越した価格でないと、隣地の人に、土地は売却できない、ということです。

この章のまとめ

限定価格とは、隣地取得などによって既存の土地の価値が増加し、通常の市場価格(正常価格)より高く買っても合理性がある場合に成立する価格です。
不動産鑑定評価基準では、隣接不動産の併合や借地権と底地の統合など、市場が相対的に限定される状況で形成される価格と定義されています。
重要なポイントは、増分価値が生じることで高値でも損をしないこと、そしてその合理性は特定の買主に限られるという点です。判断には専門知識が不可欠であり、不動産鑑定士の評価が重要な役割を果たします。

限定価格の具体例


前章では、理論的な説明をさせてもらいました。
次に、図解を交えて、具体的な例を見ながら説明をしていきます。

図解

下の図を見て下さい。

土地Aと土地Bがあります。
話を簡単にするために、土地の大きさは、どちらも100㎡です。
土地Aの方が、広い道路に面し、角地ですので、価格は高いです。
一方、土地Bは、土地Aに比べて、面する道路の幅員は狭く、角地ではありませんので、土地Aよりも安くなります。
土地Aは、1,000,000円/㎡で、1.0億円、土地Bは、500,000円/㎡で、0.5億円とします。

また、土地Aと土地Bが一体となった場合が、下図の土地A+Bです。
土地単価は、土地Aと変わらないものとすると(1,000,000円/㎡)、総額は2.0億円となります。

これだけでも、ピンと来た方は、ひょっとしたらいらっしゃるかもしれません。
単独の土地Aと土地Bを合算すると、1.5億円ですが、土地A+Bは、2.0億円です。

土地Aと土地Bが別々の場合と比較すると、土地A+Bでは、0.5億円分、増えています。
この増えた0.5億円について、鑑定用語では、増分価値と云います。

まず、上の図を見ていただきたいのですが、土地A土地Bがあります。
話を簡単にするために、土地の大きさは、どちらも100㎡です。
土地Aの方が、広い道路に面し、角地ですので、価格は高いです。
一方、土地Bは、土地Aに比べて、面する道路の幅員は狭く、角地ではありませんので、土地Aよりも安くなります。
土地Aは、1,000,000円/㎡で、1.0億円土地Bは、500,000円/㎡で、0.5億円とします。

また、土地Aと土地Bが一体となった場合が、下図の土地A+Bです。
土地単価は、土地Aと変わらないものとすると(1,000,000円/㎡)、総額は2.0億円となります。

これだけでも、ピンと来た方は、ひょっとしたらいらっしゃるかもしれません。
単独の土地Aと土地Bを合算すると、1.5億円ですが、土地A+Bは、2.0億円です。

土地Aと土地Bが別々の場合と比較すると、土地A+Bでは、0.5億円分、増えています
この増えた0.5億円について、鑑定用語では、増分価値と云います。

では、解説していきます。


土地Aが売りに出ていたとします。
売出価格は、勿論、図にある1.0億円(1,000,000円/㎡)です。
土地Bの所有者以外の方が、購入する場合には、1.0億円が妥当な価格となります。

それでは、土地Bの所有者が、土地Aを購入するとしたらどうでしょうか。
先のとおり、土地A+Bになると、2.0億円となりますので、増分価値の0.5億円分だけ高く買っても、損はしません。
つまり、1.5億円(1,500,000円/㎡)で買っても言い訳です。

今のケースで云うと、5割増しですね。

なお、ここで注意していただきたいのは、5割増しで買っても損をしない、ということであって、5割増しで買わなければいけない、ということではないことです


ですので、限定価格というのは、観念的には、隣地を最も高く買っても損をしない価格、と云えるかと思います。

まとめ


限定価格について、今回は、少し理論的に説明させていただきました。

例にもよるのかと思われますが、隣の土地を倍出してでも買え、というのは、理論的には、少し行き過ぎているのかもしれません
勿論、理論的には、土地Aと土地Bの価格差によっては、倍出してもいいような場合があることは、否定しません。

なお、厳密には、不動産鑑定では、増分価値をそのまま買主の方に上乗せするのではなく、配分割合を別途求めて、増分価値を売主と買主に案分します。
これは、どうしても計算式が必要となってきますので、これにつきましては、機会がありましたら、別途説明させていただきたいと思っております。

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