同一の土地であっても、その土地には、ひとつの価格ではなく複数の価格が存在することをご存知でしょうか?
私たちが日常的に目にする商品のように、ひとつの明確な価格があれば分かりやすいのですが、土地には、一つとして同じものが存在しないことから、価格は非常に分かりにくいです。
このように、ただでさえ土地の価格は分かりにくいことに加えて、土地の価格は目的に応じて4つの異なる目的、考え方で算出されることが多く、これを「一物四価(いちぶつよんか)」と呼ぶことがあります。土地には、4種類の価格があるということになります。
これは、不動産を売買したいとき、相続や贈与を受けたとき、あるいは固定資産税の課税対象となるときなど、目的や活用の場面ごとに異なる評価が必要となるためです。
この記事では、「一物四価」とは何か、そのそれぞれの価格の違いや使い分けの場面、さらには、注意点や知っておくと役立つことについて、わかりやすく解説していきます。これから不動産の購入・売却・相続などを考えている方にとって、知っておきたい基本知識です。ぜひ、最後までお読みください。

1. 一物四価とは?不動産の価格が4つある理由
(1)一物四価
一物四価は名前のとおり、4種類の価格があるということです。4種類の価格は以下のとおりです。
①実勢価格
市場で実際に取引される価格で、買主と売主の合意により決まります。最もリアルな「現在の価値」を反映しており、売買において重要な指標です。
実勢価格というと少し難しいようでしたら、相場と捉えてもらってもいいかと思います。不動産業者の査定は、この実勢価格に該当すると考えて下さい。
不動産鑑定士の鑑定評価も、通常の場合は、実勢価格と考えていいでしょう。
実勢価格で難しいのは、後に説明する公示価格などのように、統一的な指標のようなものがないことです。簡単に言ってしまうと、これが実勢価格です、というような直接的な指標がないことです。従いまして、ご自身で調べるか(後程、説明します。)、不動産会社に聞くなどして調べることになります。

②公示価格
概略
国土交通省のホームページによると、以下のとおり説明されています。
”地価公示法に基づいて、国土交通省土地鑑定委員会が、適正な地価の形成に寄与するために、毎年1月1日時点における標準地の正常な価格を3月に公示するもので、社会・経済活動についての制度インフラとなっています。”
役割
同ホームページでは、以下のとおり記載されています。
- 一般の土地の取引に対して指標を与えること
- 不動産鑑定の規準となること
- 公共事業用地の取得価格算定の規準となること
- 土地の相続評価および固定資産税評価についての基準となること
- 国土利用計画法による土地の価格審査の規準となること 等
役割りをみてみますと、通常考えられる土地の利用目的のほぼ全てを網羅していますので、公示価格が、不動産価格の基本となっている、と考えてもらってもいいでしょう。
公示価格は、後に説明します基準地価格と合わせて、国土交通省のホームページから見ることが出来ます。
価格について
公示価格(基準地価格も同様)について、2つ補足説明があります。
実際の土地を評価している
1つは、公示価格は、実際の土地を評価していることです。
これはどういうことかといいますと、実際の土地が角地であったり、不整形だったりしますと、この角地の増価や不整形の減価を反映している、ということになります。
ですが、役割りにあるとおり、取引の指標となることが目的ですので、極端な増減価のある土地が公示地に選ばれてはいませんので、だいたいの土地価格が分かればいい、ということでしたら、公示価格そのものを参考にしていただいていいと思います。
更地としての評価
2つ目ですが、先に実際の土地といいましたが、公示地は通常、建物の敷地となっている土地が公示地となっています(例外もあります。)。これは建物があった方が公示地が分かりやすいからです。
ですが、土地上に建物が存していても、公示地の評価はその土地のみの評価で、その土地が更地だった場合の評価となっていることです。

③相続税評価額(相続税路線価)
概略
相続税や贈与税の課税の基準となる価格で、相続税路線価に基づいて算定されます。相続税路線価とは、国税庁が毎年公表している土地の評価額の一つで、相続税や贈与税を計算する際の基準となる価格です。先の地価公示と同様に、1月1日時点の価格となっており、毎年7月初めに発表されます。
この後説明する固定資産税にも路線価がありますので、区別するため、相続税路線価と呼ぶことにします。なお、路線価といえば、一般的には、この相続路線価のことを指していると考えて下さい。
本項目を相続税評価額(相続税路線価を)と記載させていただいていますが、厳密には、相続税評価額と相続税路線価は異なります。
用語の整理になりますが、相続税路線価(後記参照)は、路線に面する標準的な土地の価格。一方、相続税評価額は、相続税路線価から、角地や不整形などの個別的要因を反映させた実際の土地の価格、となります。この点については、ご注意下さい。
相続税評価額は、相続税や贈与税の申告の際に、計算をすることになります。
役割
相続税、贈与税の課税の基準となる価格です。
価格について
路線に接する標準的な土地の価格
相続税路線価は、先の公示地とは異なり、具体の地点を評価しているのではなく、その土地が接している「道路(路線)」ごとに1㎡あたりの価格が定められています。
ですので、「路線価」と呼ばれています。
公示地は、角地や不整形などが反映されていますが、相続税路線価はその路線に接する標準的な土地の価格を表しています。従いまして、調べている土地が角地でしたら、相続税路線価をベースに、角地の補正をする必要があります。
公示価格は、必ずしも調べたい土地の近くにあるとは限らないので、場合によっては、活用が難しい場合がありますが、相続税路線価は、調べている土地の前面にある路線価を見ればいいので、分かりやすいです。
公示価格の80%
なお、相続税路線価は、公示地価の80%となるように設定されていることは、覚えておいて下さい。相続税路線価が、800,000円/㎡でしたら、これを80%で割り返しますと、公示価格水準となります。
800,000円/㎡÷80%=1,000,000円/㎡
路線価がない地域もある
すべての地域に路線価があるわけではありません。路線価の設定がない地域(地方の郊外など)では、「倍率方式」といって、固定資産税評価額に一定倍率をかけて評価します。

④固定資産税評価額(固定資産税路線価)
概略
地方自治体が課税の基準とする価格で、固定資産税や都市計画税の算定に主に使われます。
不動産をお持ちの方でしたら、毎年、5~6月に、東京23区でしたら、東京都主税局から、それ以外でしたら、市町村から固定資産税・都市計画税の納税通知書が送られてきます。この納税通知書に固定資産税・都市計画税の評価額が記載されていますので、もしかすると、相続税評価額(相続税路線価)よりも馴染みがあるかもしれません。
固定資産評価額は、固定資産税・都市計画税だけでなく、不動産取得税、登録免許税の計算の際にも利用されます。
こちらも相続税評価額(相続税路線価)と同様に、固定資産税税路線価(後記参照)は、路線に面する標準的な土地の価格。一方、固定資産税評価額は、固定資産税税路線価から、角地や不整形などの個別的要因を反映させた実際の土地の価格、となります。
固定資産税評価額は、先に述べましたが、毎年送られてくる納税通知書に固定資産税評価額が記載されています。申告の際に計算する相続税評価額と、この点、異なります。


役割
固定資産税・都市計画税の課税の基準となる価格です。また、不動産取得税、登録免許税の課税の基準ともなります。
価格について
路線に接する標準的な土地の価格
相続税路線価と比較すると、あまり知られていないかもしれませんが、固定資産税にも路線価があります。路線に接する標準的な土地の価格ということに関しては、相続税路線価と同様です。
路線価に関して、一つ注意していただきたいのは、相続税路線価は、毎年評価が行われていますが、固定資産税の場合には、3年の1度の評価になることです。評価した年はいいのですが、それ以外の年で、不動産価格に大きな変動がある場合には、参考にしづらい場合があります。
なお、固定資産税の路線価そのものは、3年間同じものを活用しますが、毎年時点修正が行われます。この時点修正は、地価が下がった場合にのみ行われ、地価が上がった場合には、据え置きとされます。
そうしますと、地価が下がっている時には、固定資産税の路線価に時点修正をすることにより、その価格を参考にすることが出来ますが、地価が上がっている場合には、据え置きですので、活用することが出来ません。この点はご注意下さい。
固定資産税評価額及び固定資産税路線価の目的は、固定資産税等の課税のためにあるもので、不動産の適切な時価を提供するという目的ではないので、仕方ありません。これに関しては、相続税評価額(相続税路線価)も同様です。
固定資産税評価額には、建物の評価額がある
固定資産税評価額には、建物の評価額もあります。建物を所有されていましたら、前述しました納税通知書に、建物の評価額が記載されています。
話しが前後しますが、相続税評価の時の建物評価はどうなるでしょうか。
実は、固定資産税評価額が使用されるのです。この点で、固定資産税の評価も重要です。
公示価格の70%
先の相続税評価額(相続税路線価)が公示価格の80%となるように設定されていると説明させていただきましたが、固定資産税評価額(固定資産税路線価)は、公示価格の70%となるように設定されています。

(2) 不動産の価格が4つある理由
4つの価格について、説明しました。それでは、なぜ4つの価格があるのでしょうか。
不動産の価格が4つある理由は、土地や建物の価格が、使う目的や場面によって変わるからです。
まず、「売買」です。実際に土地や家を売ったり買ったりするときに決まるのが「実勢価格」です。相場と言い換えてもいいかもしれません。これは、そのときの景気や人気、立地などによって日々変わります。
「税金計算」の為に、必要になるのが、「相続税評価額(相続税路線価)」、「固定資産税評価額(固定資産税路線価)」です。
不動産を所有されている方に毎年課税される固定資産税・都市計画税の計算のために、固定資産税評価額(固定資産税路線価)が用いられます。
相続税、贈与税の計算には、相続税評価額(相続税路線価)が使用されます。
固定資産税評価額(固定資産税路線価)は、不動産取得税、登録免許税の計算にも用いられますし、相続税、贈与税の建物の計算にも使用されます。
そして、「公示価格」は、これら「実勢価格」、「相続税評価額(相続税路線価)」、「固定資産税評価額(固定資産税路線価)」の基礎となっていると言えます。
再掲しますが、公示価格の役割から、納得いただけるかと思います。
- 一般の土地の取引に対して指標を与えること
- 不動産鑑定の規準となること
- 公共事業用地の取得価格算定の規準となること
- 土地の相続評価および固定資産税評価についての基準となること
- 国土利用計画法による土地の価格審査の規準となること 等

(3)実勢価格と公示価格について
ここまでお読みいただき、ひょっとして、実勢価格と公示価格について、疑問を持たれ方もいらっしゃるかもしれません。
公示価格が上記のとおり、“一般の土地の取引に対して指標を与えること”が役割りでしたら、実勢価格と同じになる筈なのに、どうして、実勢価格と公示価格が存するのか、と思われた方がいらっしゃるかもしれません。
そうでしたら、一物四価ではなく、一物三価でいいことになります。
結論をいいますと、実勢価格と公示価格は必ずしも同じではありません。同じもこともあるでしょうが、そうでないことの方が多いように考えています。
従いまして、一物四価でいい、ということです。
では、なぜ実勢価格と公示価格が異なるのかというと、経済情勢を地域などに、大きく左右されるのですが、不動産価格の上昇局面では、実勢価格が公示価格よりも先行して上昇し、反対に下落局面では、実勢価格が先行して下落するためです。
本ブログを記載している2025年7月(令和7年7月)時点では、不動産価格は上昇局面にあり、都心部では、実勢価格は公示価格よりも高くなっている、というのが現状です。
全ての地域を把握している訳ではありませんが、主要都市の中心部でしたら、相続税路線価の2倍程度という取引も多く見られるのかと推測しています。仮に相続税路線価の2倍としますと、相続路線価は、公示価格の80%(0.8)ですから、公示価格の1.6倍が実勢価格となります。これは目安であって、時期や地域によって異なりますので、ご注意下さい。

2. 一物五価という考え方もある
「一物五価」ということもあるようです。
これは「基準地価格」を加えたもので、基準地価格には、以下のような特徴があります。
都道府県が毎年公表する価格で、公示価格と同様に不動産評価の指標となります。基準地価格は、7月1日時点の価格ということ以外は、公示価格と同様と考えてもらっていいです。基準地価格の大きな特徴は、先の価格時点以外に、公示価格が設定されていない地域にも設定されているということがあげられます。
具体的にいいますと、人口が少ないエリアや市街化が進んでいない地域、地方の山間部や農村部などにも、基準地が設定されていることがあります。また、林地の地点もあるのが、基準地の大きな特徴です。
なお、公示地と同様に、都心部にも基準地価格はあります。
基準地価格は、時点以外は、公示価格と同様と考えてもらっていいので、私の感覚では、一物五価というよりは、一物4.5価です。一物四価といってもいいかもしれません。
3.価格整理
ここで一度、説明させていただきました5つの価格について、整理します。
実勢価格 | 公示価格 | 基準地価格 | 相続税路線価 | 固定資産税路線価 | |
主務官庁 | - | 国土交通省 | 都道府県 | 国税庁 | 市町村 |
価格時点 | - | 毎年1月1日 | 毎年7月1日 | 毎年1月1日 | 3年ごとの1月1日 |
公表時期 | - | 毎年3月下旬頃 | 毎年9月下旬頃 | 毎年7月上旬頃 | 基準年の3月頃 |
価格の特色 | いわゆる”相場” | 個別的要因を含んだ価格 | 個別的要因を含んだ価格 | 個別的要因は含まない(標準画地の価格) | 個別的要因は含まない(標準画地の価格) |
備考 | 適正な時価 (原則として都市計画区域) | 公示価格と同一水準(都市計画区域外を含む) | 公示価格の80% | 公示価格の70% |
相続税と固定資産税は評価額ではなく、路線価となっていることに注意して下さい。
4. 各価格の調べ方
それぞれの価格は、次のように調べることができます。
実勢価格
最近はWEB上で色々と調べることが出来るようになりましたが、一般の方が成約価格まで調べるのは困難だと思っています。
売り希望価格から推測する、ということになるのかと思います。
不動産価格(取引価格・成約価格)情報(国土交通省)は、唯一、成約価格情報を知ることが出来ますが、詳細の場所までは分かりませんので、参考という位置づけに留まると考えます。
実際に売却を検討されているのでしたら、不動産業者にヒアリングするのが一番簡単な方法だと思われます。

公示価格・基準地価格
国土交通省「土地総合情報システム」や都道府県のホームページで公表されています。
東京都でしたら、こちらです。

相続税評価額(相続税路線価)
国税庁の「路線価図・評価倍率表」から閲覧可能です。都道府県ごと、市区町村、町名別に細かく確認でき、地図上で路線価を検索することもできます。
固定資産税評価額(固定資産税路線価)
固定資産税評価額は、自治体から送付される納税通知書で確認できます。所有者でなくても、賃借人等であれば、閲覧可能です。
東京都23区でしたら、主税局のホームページから、固定資産税の路線価等も見ることが可能です。
5. まとめ:一物四価を理解して、正しく不動産の価値を判断しよう
不動産の価格は一律ではなく、目的や場面によって異なります。
一物四価を理解し、どのような場面で、どのような価格が用いられるのかが分かっていれば、不動産投資や売買、相続対策において、より的確な判断が可能になります。 価格の違いを正しく認識し、目的に合った不動産価格を活用できるようになりましょう。
